東京マラソン2009と長野マラソン2009に参加して | |||||||||||||||||||||||||||||||
ーハイリスクからローリスクへ、リタイアする勇気をー | |||||||||||||||||||||||||||||||
はじめに | |||||||||||||||||||||||||||||||
ここ数年、いやもっと前からかもしれないが、家族はともかく友人が私に言うことは決まっている。“歳なんだからもういい加減にしたら?”、“気をつけてね、もう歳なんだから”などなどである。それはきっと何物にも代え難い忠告と考えてのことであることは明らかではあるが、しかし、この言葉は私には相当のプレッシャーで、もしなにか良からぬことをしでかしたら、顔にこそ出さないまでも心の中ではきっと笑っているのだろうとふと思うからである。 たしかに、若くて身体能力に余裕のある年代であれば長距離を走ることはとりたててハイリスクとは言われないであろうが、60歳を過ぎてくるとなんとなくその忠告が真実味を帯びてくる。それは自分でも気にしているからに他ならない。ましてやもうすぐ70歳の大台に乗るのであるからなおさらではある。ここでは、そんなことを気にしながら東京マラソン2009と長野マラソン2009に参加して考えたことを記しておきたい。その基本は、“完走”こそが“ハイリターン”の最大の源泉であるが、わくわくした気分で参加することだけでも同様に楽しいことが分かってきたことである。 |
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東京マラソン2009の結果と総括 | |||||||||||||||||||||||||||||||
数日前までは曇りであった天気予報が、風雲急を告げる黒い雲の動きを見ていると悪い方向に変ったことがはっきりして不安な気持ちであった。しかし、第一回に参加したときの開始前からの、あの寒さと強い雨でお先真っ黒な気分であったことを考えるとまだまだましであった。第一回の経験とその後の不整脈への対応などを考え、“ハイリスク”を避けるためにも、安定したペースで走るために必要な設定タイムをかなり引き下げることにした。第一回の時にはキロ当たり5分34秒に設定した。しかし走ってみて分かったことは、スタートからかなりの下り坂もあり実際にはそれよりかなり早いタイムで走り、結局後半に大幅にタイムを落としてしまったことから(下表参照)、今回はキロ当たり6分11秒に設定し、最終的に4時間20分を目標タイムとした。それが“完走”を多いに助けることになると考えたからである。これまでは4時間を切って走ることをひとつの目標としてきた私としては、大きな方向転換であった。つまりは、“タイム”よりは“完走”を第一義的な目標に掲げることにしたのである。ここ数回のハーフの走りからも、“走りきる”ことが“ハイリターン“であることを実感していたのである。この目標のために、今年が最後だと言われ、私の大好きなコースである京都シティハーフ(3月8日)を敢えてキャンセルして東京に臨んだのである。下の表のデータは自分の時計で1キロごとに測定した値を2キロごとに計算し直したもので、下段の5キロごとのデータは公式のデータからスタート遅れのタイムを差し引いたものである。上段のデータをグラフにしたのが下の図である。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
2009年(mm:ss) 2007年(mm:ss)
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2k 11:47
10:30
4k 11:15
10:01
6k 11:49
10:07
8k 12:04
10:22
10k
12:05
11:32
12k
12:12
10:35
14k
12:03
10:53
16k
12:14
10:28
18k
12:11
10:47
20k
11:58
10:47
22k
12:15
11:21
24k
12:22
11:00
26k
12:35
11:11
28k 12:30 11:01 30k
12:44
11:01
32k
12:52
11:25
34k
13:01
11:25
36k
13:18
14:44
38k
13:30
16:26
40k
16:31
18:14
42k 18:37
17:19 (概算)
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5k 28:54 25:33 10k 59:05 51:32
15k 1:29:27
1:18:09
20k
1:59:48
1:45:03
25k 2:30:37
2:12:56
30k
3:02:18
2:40:39
35k 3:34:41 3:09:27 40k 4:11:35
3:52:56
Goal 4:32:30 4:12:11 (Gun Time、公式タイム) 4:31:54 4:11:56 (Finish Time、手元の時計) 中間点、 2:06:34 およそ1:50:20 |
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上のグラフから明らかなように、2007と比べても30キロ前まではよくコントロールされた走りになっていたことが分かる。この日中盤からかなり強い雨が降り始め、後半には真っ直ぐに走れないほどの強風も吹いたにもかかわらず、安定したペースを維持できていたのは2年前よりも余裕のあるペース設定で臨んだことによるのであろう。このことはいつもの終盤の大きな落ち込みが2007年の場合には 34キロから起こっているのに対し、今年は38キロ以降に現れたことからも分かる。あの風と雨にもかかわらずである。このようにペース設定を落としたことが私を楽に走らせた要因であった。 でも、課題はある。それは上の急激な落ち込みとともに、ゴールしたあとは明らかにフラフラの状態で、荷物を受けとったあともしばらくは電話やメールすらもできなかったのである。後からよく考えてみると、いろいろと飲み食いしたにもかかわらず翌日の昼頃まではトイレに行っていなかったのである。これは明らかに脱水症状だったと思われる。私はマラソンの時には脱水状態にならないようにできるだけこまめな給水を心がけてきた。どうしてそんなことになったのだろう? 結論はあの強風だったように思う。思うというのは、そのことについて文献上探してみてもデータが見つからないのである。私は次のように考えている。通常、私たちの身体の表面からはかなりの量の水分が蒸発している。これは汗腺からの汗としてだけではなく皮膚の表皮を経由して放出される水分量で学術的には「経皮水分蒸散量」と呼ばれている。これと汗腺からの汗、それに呼気からの水分放出がマラソンなどの際の水分のロスとなる。これを合わせると普通の状態では約1リットルである。もう少し細かく考えると、身体の表面からの水分は直接空気中に拡散してゆくのではないと思われる。つまり、皮膚の表面には皮膚からの水分で飽和された厚さ不明の空気層が存在し、そこから空気中に徐々に拡散するのだろうと思われる。ところが、強風が吹き荒れるとその空気層が風によって吹き飛ばされ、皮膚表面から水分が直接空気中に拡散することで大きな水分ロスが起こっていると考えるのである。我々がマラソンを走るときには胃のもたれを避けるためにあまり大量の水を補給することはなく、経験的にぎりぎりの量の給水でしのいでいるようである。だから、少しでも余計の水分のロスは時として致命的な脱水状態になりかねない。 これはもちろん私の勝手な議論であり、強風と雨によって当然相当量の余計なエネルギー消費があったことは当然である。それによる低血糖、つまりはエネルギー切れが終盤の落ち込みとゴール前後の消耗感に現れたと考えても説明が可能ではある。今回のこの経験を多くの専門家に問い合わせてみてもなかなか的確な答えを得ることは難しいのが現実である。それほど水分ロスと水分補給の問題は難しい。十分に注意したいものである。 |
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長野マラソン2009の結果と総括 | |||||||||||||||||||||||||||||||
残念ながらここに書くことはあまりないが、大事なことを書きたい。4月19日の長野はなんとも暑い一日だった。東京マラソンから1ヶ月も経っていなかったためか体が重く脚も重い。そんなわけで、善光寺参道を走る頃になっても楽にならず、5km 28:53、10km 01:00:36のタイムの通過は予定通りではあったが最後までは持ちそうもないと考え、早めにリタイアを決断した。 冒頭にも書いたが、中高年になってくれば身体の限界に挑戦するようなマラソンはジリジリとハイリスクになってくるのは確かであろう。もちろん、それなりのトレーニングをして臨むのであるから一般の方々が考えるほどリスクが高いことはない。しかし、リスクを自分の意志で求めることになるわけであるから、それなりの覚悟と用意はすべきである。私はここ数年、決して無理はしない方向へ動きつつあった。元々、ゴール間近のラストスパートは決してしなかったが、目標は高いところに置きつつ、それが可能かどうかを見定めようともしてきた。これまでも体調不良の場合にはリタイアをすることとしてきたが、今回も暑さと疲れを考えて早めの決断をした。 |
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あとがき | |||||||||||||||||||||||||||||||
日本人はよく“年甲斐もなく”とか“いい歳をして“とかの言葉を発するのが好きである。何故そんな言葉が頻発するのかは分からないが、善意に解釈すれば昔から世代交代をスムースに進めようとの意図が隠されているのかもしれない。それはともかく、これほど生活の質も変わり、栄養状態も変わり、トレーニングの仕方も変わり、長寿社会になったのであるからそのあたりのことは少し考え直した方がいいような気がする。40代のプロ野球選手がゴロゴロいる時代である。いつまでもそんなことを言っていると、高年齢層が行き場を無くし、覇気のない最低のQOLを送らざるを得なくなるであろう。確かに“達成感”なるハイリターンを得るためには、やはりある程度のリスクを引き受ける心構えが必要であろうし、それをいつまでも享受するにはそれなりの決断が必要である。上に書いた東京のレースではペース設定を穏やかにし、長野では早めのリタイアの決断をした。特に、長野での早い決断をした自分をおおいに褒めてやろうと思っている。このことによって秋からの新しいシーズンにも展望が見えてくるのである。そしてその時その時の達成感や若い人達との高揚感がまた味わえるかと思うと楽しみである。この「リタイアする勇気」は若い人達にも当てはまることである。東京マラソンでの松村邦洋氏(41)の心筋梗塞の例を見るまでもなく、実は年齢に関係なく必要なことであり、肝に銘じたいものである。さて最後に東京マラソンで楽しそうに品川折り返し後の増上寺前と浅草の折り返しあたりを走っている筆者の写真2枚を掲載させていただく。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
(2009年4月24日) | |||||||||||||||||||||||||||||||
(追伸:新潟から長野マラソンに参加された方で、長野で私とお話ができた方、申し訳ありませんがもう一度メールをお出し下さい。設定が間違っていましたので出されたとしても届きませんでした。) | |||||||||||||||||||||||||||||||
追記(2009年5月19日) | |||||||||||||||||||||||||||||||
長野マラソンの本部から公式記録証が届きました。私には5キロと10キロのデータしかありませんが、一緒に走った方々にはちゃんとした記録証が来たようである。その中で、一緒に走ったS嬢のデータをお借りしたのでそれを掲載しておきたい。彼女は子育てに忙しく、昨年秋の荒川タートルマラソン(ハーフ)以降ほとんどトレーニングはできていなかったにもかかわらず、混雑で走れない最初の5キロを除き、グラフで分かるように見事なペース配分で6年振りかのフルマラソンを走りきった。公式タイムは4時間33分57秒、ネットタイムは4時間2 7分15秒である。ただただ驚くばかりである。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
以下に5キロ毎のラップタイムを掲載しておく。最後のゴール地点の数字は5キロに換算した。なお、上の私自身の東京マラソンのグラフにスプリットタイムとあるが、ラップタイムに訂正させていただく。順位は「総合女子」のものである。 S-5km 0:33:54 (1223位) 5-10km 0:30:50 (1131位) 10-15km 0:30:44 (1042位) 15-20km 0:30:46 (947位) 20-25km 0:30:28 (873位) 25-30km 0:31:27 (793位) 30-35km 0:32:21 (709位) 35-40km 0:32:43 (650位) 40-Goal 0:33:54 (643位) |