前立腺がんに対する「高線量率組織内照射」治療、その後(2)
まえがき
 私は2003年の夏、前立腺ガン治療のために大阪大学医学部附属病院において「高線量率組織内照射」なる放射線治療を受けた。そしてその年12月にその治療の内容を私自身のホームページで公開し、そこに「この度の治療の過程で知り得た様々な情報を私の体験として皆さんに公開し、前立腺がんに悩む皆さんが行なわなければならない判断材料の一部として、また皆さんの不安解消に役立てられれば幸いである」と書いた。この約束を守るため、放射線治療から1年7ヶ月が経過したとき、腫瘍マーカーがどのような変動を示してきたかを中心として、簡潔な事後報告、「前立腺がんに対する『高線量率組織内照射』治療、その後(1)」を書いた。
 それを書いてから既に5年が経った。その間のPSA値の変動を中心に「その後(2)」として報告したい。
腫瘍マーカー“PSA”値の変動
 PSA値の測定はおよそ3ヶ月に一度のペースでおこわなれてきた。上の図には、小さくて判別が難しいことを承知でその具体的な数字を書き込んである。最も値が下がったのは2005年6月6日の1.12であった。この図で明らかなように、放射線治療前のホルモン療法と放射線治療によって大幅に低下したPSA値は、その後1 .12を境にして僅かずつ上昇に転じたように見える。そして、2009年12月2日に3. 62になった時点で一応“再発”と判断して次の手を打つことになった。

 “再発“という言葉は、私たちが普通に感じる意味とはかなり異なるもので、“再起動”とも言われるようである。このPSA値というのは、もともと正常な前立腺細胞が基本的にもつある種の酵素が、血中に漏れ出た量を表している。したがって、正常でも一定の量が血中に存在するが前立腺細胞ががん化したり、前立腺細胞が増加したりすればその血中量が上昇する。一般に男性が高齢化すれば前立腺肥大が起こることが良く知られており、がん化あるいはがん再発でなくともその値は上昇する可能性が高い。

 このような理由から、実際にがん細胞を掴み出さない限り“がん再発”とは断定できないわけで、上のような僅かな数値の変動をどう考えるかは微妙なこととなる。しかし、微妙だとはいえ放置することもできず、どこかで線引きをせざるを得ない。泌尿器科あるいは放射線科の医師によれば次のように判断すると決めているという。すわなち、放射線療法などの治療においては、最も下がった時点の数値に“2”を足した値より上の数値になった場合に一応“再発”と判断することにしているようである。私の場合には、その数値は3.12である。
抗男性ホルモン作用薬の投与
 上の判断を元にして、2010年1月7日より2週間だけ「カソデックス」という男性ホルモン作用部位(受容体)阻害剤(つまり、男性ホルモンの作用を阻害する薬剤)を投与することとした。この薬剤は放射線治療の前にも投与を受けたもので、私のがん細胞には効果的であることが証明されていた薬剤である(前回の報告では、これを女性ホルモンの薬剤を誤って記載したことをお詫びする)。その結果、3.62→2.54へと低下した。さらに3月1日から2週間再度服用したところその数値は、3.62→2.54→2.31へとさらに低下したことは、上の図からも明らかである。

 これらの結果は、私の前立腺細胞はあるいはがん細胞は少なくともこの薬剤に感受性であることが再び証明された。ただし、最初に投与を受けたときに白血球数が低下したこと、また、前立腺がん細胞は往々にして抗男性ホルモンの薬剤に対して抵抗性を示すものが出てくることが知られているので、できるだけ投与量を下げるためにこの薬剤を間歇的に使用することになった。したがってもう少し数値を下げるため、5月1日から3度目の投与を行う予定である。
その他の副作用など
 これまでのところ特に問題となる副作用というか症状は何もなく、元気に日常生活を送ることができている。上の数値の変動から分かるように、いまのところ私の前立腺がんはうまくコントロールできているように思われる。今後もできるだけ少ない量の薬剤でコントロールしたいものである。このPSA値以外にも骨シンチやMRI、CTなどによって骨への転移などを警戒しているが、幸いなことにいまのところ異常は検出できていない。今後も定期的な検査などで状況を把握できればと思っている。そしてまた数年後に良い報告ができることを楽しみにしている。

                           (2010年3月26日)